「今の会社に知られないまま、転職活動を進めたい」——面接の場でも、この不安を口にする人はとても多いです。応募のたびに有給の理由を考える。会社のパソコンで求人サイトを開いてしまってから、ひやりとする。同じ業界の知り合いに、うっかり話してしまったことを後から悔やむ。
この記事は、いま会社に在籍しながら転職活動をしている(これから始める)方に向けたものです。すでに離職している方は、この記事の心配は当てはまりません。
先に、採用する側の立場から書いておきます。中途採用では、働きながら転職先を探している人のほうが一般的です。応募してくる候補者の多くは在職中で、選考する側もそれを当然の前提として日程や進め方を組んでいます。少なくとも私が関わってきた選考で、在職中であることを理由に評価を下げたことはありません。
ただ、「バレる」という現象そのものは、たしかに起きます。そして私が見聞きしてきた範囲では、その多くは応募先の企業から漏れたのではなく、応募した本人の足元で起きています。どこで漏れやすいのか、どこはひとまず心配しなくていいのか。選考する側から見える範囲で整理します。
応募先から現職に連絡が行くのは、一般的ではない
まず、いちばん多い誤解から。「応募したら、その会社が今の勤務先に確認の連絡を入れるのではないか」という不安です。
通常の中途採用の選考で、本人の同意なく候補者の在籍先へ照会をかけることは、一般的ではありません。理由は単純で、応募者の不利益になるからです。採用する側からしても、候補者を危険にさらしてまで選考を進める意味がない。応募の事実は、選考に関わる社内の限られた範囲で扱われます。
ただし、これは「絶対に漏れない」という意味ではありません。情報の取り扱いを誤る、担当者どうしの個人的なつながりから話が出る、採用業務を外部に委託している——そうした経路まで含めれば、可能性をゼロにはできません。制度としては細い経路だ、という程度に受け取ってください。
一つ、直接的に関係する場面としてリファレンスチェックがあります。前職・現職の上司や同僚に、候補者の働きぶりを確認する仕組みです。原則として、事前の説明と本人の同意を前提に実施されます。ただし、推薦者を候補者本人が指定する方式もあれば、対象者や確認方法を企業側と相談して決める方式もあり、現職への照会を避けられるかどうかは企業やサービスによって異なります。説明のないまま現職への連絡を示唆された場合は、その時点で立ち止まって条件を確認して構いません。
では、実際には何が起きているのか。
実際に漏れる経路は、自分の足元にあることが多い
私が見聞きしてきた範囲で、在職中の転職活動が周囲に伝わってしまう経路は、だいたい次の四つのどれかに当てはまります。
1. 会社の設備を使ってしまう
会社から貸与されたパソコン、社用のメールアドレス、社内ネットワーク。ここで求人サイトを開いたり、応募のやり取りをしたりするのが、いちばん多い入口です。企業によっては、業務端末の通信ログや、貸与端末上のメールを管理者が確認できる状態になっています。これは個人を監視するためというより情報漏えい対策として整備されているものですが、結果として転職活動の痕跡も残り得ます。
見落とされがちなのが、社内の共有カレンダーです。予定の中身を非公開にしていても、「予定あり」の時間帯だけは同僚から見える設定になっていることが少なくありません。午後に定期的な不在が続けば、それだけで察する人はいます。
ただし、予定を全部隠すのはやめてください。不在の時間が同僚に見えないと業務に支障が出ますし、勤怠の運用に反することもあります。やるべきなのは、会社のルールどおりに「有給」「私用外出」と表示したうえで、面接先の社名や「面接」という語を書かないことです。隠すのは中身であって、不在の事実ではありません。
2. スカウト向けの職務経歴書を、そのまま公開してしまう
転職サイトやスカウトサービスに登録すると、自分の経歴が企業側から検索できる状態になります。ここに勤務先名・部署・担当業務・在籍年数を実名どおりに書いていると、自社の人事や、自社と付き合いのある会社の担当者が見つけてしまうことがあります。採用の担当者はこうしたデータベースを日常的に見ているので、社名で絞り込めば自社の社員が出てくる、という状況は普通に起こり得ます。
サービスによっては、特定の企業に自分の情報を見せない設定(ブロック機能などと呼ばれます)が用意されています。ただし、その機能の有無、指定できる社数の上限、どこまでを遮断できるのかはサービスごとに違います。関係会社や、採用業務を受託している会社からの閲覧まで防げるとは限りません。登録するなら、まず自分が使うサービスの公開範囲とブロックの仕様を確認したうえで、現職と、可能なら関係の深い会社を指定してから公開する。ここは登録直後にやっておかないと、間に合いません。
3. 人に話す
同期、仲のいい先輩、社外の同業の知り合い。悪意がなくても、話は広がります。「誰にも言わないでね」と言って伝えた話が、同じ言葉を添えて次の人に渡っていく。これは職場に限った話ではありませんが、狭い業界ほど戻ってきやすい。
ひとつ整理しておくと、企業が選考で得た応募者の情報を、本人の同意なく第三者へ伝えることは、個人情報の取り扱いとして原則許されません(法令上の例外はあります)。担当者が業務上知ったことを個人的な雑談で外に話す場合も、会社の情報管理や守秘の問題として扱われうる行為です。ただし、それがどう評価されるかは個別の事情によります。もし応募先から現職へ伝わったことが疑われる場合は、その企業の個人情報の利用目的や第三者提供に関する記載を確認したうえで、個人情報保護委員会が案内している相談・苦情の窓口に問い合わせてください。
そのうえで実務的な話をすると、制度で守られていても、話が広がる経路は残ります。決まるまでは、社内外を問わず話す相手を絞るのがいちばん確実です。
4. 振る舞いが変わる
急に有給の取り方が変わる。日中に席を外して電話をする回数が増える。服装が変わる。これ自体で確証を持たれることはありませんが、周囲が「もしかして」と思うきっかけにはなります。面接の時間帯は平日の日中に集中しがちなので、どうしても表に出やすいところです。
それでも、隠しきることを目的にしすぎない
ここまで書いておいて逆のことを言いますが、「絶対にバレない」を最優先にすると、転職活動そのものが進まなくなります。
面接の候補日を出せない。返信が深夜になる。書類を書く時間が取れない。結果として選考が長引き、途中で消耗してやめてしまう——これは実際によく見る流れです。
現実的な落とし所は、痕跡が残る経路(会社の設備、公開設定、話す相手)を最初にきっちり塞いだうえで、活動そのものは普通に進める、という組み立てだと思います。塞ぐべきところは、どれも一度手を打てば終わる作業です。
今日のうちに確認しておきたいこと
- 求人サイトの登録と応募のやり取りに使うメールアドレスは、個人のものになっているか
- 応募関連の閲覧・作業を、会社貸与の端末や社内ネットワークでしていないか
- 社内の共有カレンダーの予定に、応募先の社名や「面接」と書いていないか(不在の時間そのものは会社のルールどおり表示する)
- 経歴の書き方が、社名を伏せても特定されるほど具体的になっていないか
スカウトサービスは、公開前にこの画面を見る
ここだけは項目が多いので、分けて書きます。設定の名称も、できることの範囲もサービスごとに違います。だから「ブロックしておけば安心」とは言えません。登録したら、公開前に次を自分の目で確認してください。
- 公開範囲の設定はどこにあるか——「公開設定」「プライバシー設定」「企業への公開」など名称はさまざま。まずこの画面を探す
- ブロック機能があるか、何社まで指定できるか——上限が数社しかないサービスもあります
- グループ会社・取引先まで指定できるか——現職1社だけしか指定できない場合、親会社や子会社からは見えます
- 採用を代行している会社からの閲覧は防げるか——ここは防げないことが多い。過度に期待しない
- 氏名や現職の社名が、企業側にいつ見えるか——匿名のまま表示され、スカウト後に開示される方式もあれば、最初から見える方式もあります
- 登録しただけで公開状態になっていないか——「非公開のまま作成 → 確認 → 公開」の順に進めるのが安全です
そのうえで、防ぎきれない前提で書き方を調整してください。社名を伏せても「業界+規模+担当領域+在籍年数」が揃えば絞り込めます。特定されて困る場合は、どれかをぼかす。粒度を落とすとスカウトは減りますが、そこは天秤です。
もし、気づかれてしまったら
ここまで対策を書いてきましたが、それでも伝わってしまうことはあります。そのときにどうするかを書いておかないと、この記事は不安を煽っただけになります。
上司に直接聞かれた場合
まず、転職活動をしているかどうかを会社に申告する義務は、通常ありません。就業時間外の私的な活動だからです。そのうえで、実務的にどう答えるか。
- 答えたくないなら——「私的なことなので、お答えは控えさせてください」。転職活動をしているかどうかを申告する義務は通常ないので、これで問題ありません(実質的に肯定と受け取られる可能性はあります)
- 認めてもいいなら——「考えている段階です。ご迷惑をかけないよう、業務は今まで通り進めます」。ここで大事なのは、次の一文です
その場で即答する必要もありません。「答えを控える」「後日あらためて話す」も選択肢です。言いたくないことを言わずに済ませるのと、事実と違うことを言うのは別のことなので、迷ったら前者を選んでください。判断に困る状況(すでに不利益な扱いを受けている等)なら、答える前に社外の相談窓口に聞くという手もあります。
そのうえで、上司がいちばん気にしているのは、あなたの去就そのものより担当業務がどうなるかです。だから、実際に支障が出ていないのであれば、そう伝えると話がこじれにくくなります(出ているなら、そこは正直に)。
不利益な扱いを受けた場合
担当を外される、評価が下がる、退職を勧められる。こうしたことが起きた場合、まず切り分けが要ります。配置換えや評価には、業務上の正当な理由があることも当然あるからです。時期が重なっただけで報復と決めつけると、話がこじれます。逆に、転職活動が知られた直後に理由の説明もなく変わった、説明を求めても答えがない、という場合は疑う根拠になります。判断が難しいところなので、自分で結論を出さず、次の手順で相談してください。
- 記録を残す——いつ、誰が、何を言ったかを、日付入りで自分のメモに書く。これがいちばん確実で、安全です。業務メールやチャットを社外へ転送したり私物端末に保存したりするのは避けてください。顧客や同僚の情報、営業秘密が含まれることがあり、社内規程に触れる可能性があります。証拠として必要になった場合は、どう保全するかを相談窓口や専門家に先に聞いてください
- 社内の窓口へ——人事部門、コンプライアンス窓口、労働組合があれば組合
- 社外の窓口へ——各都道府県の労働局にある総合労働相談コーナーは無料で相談でき、労働局からの助言・あっせんにつなぐこともできます
- 退職を迫られたら、その場で承諾しない——退職届に署名しない、口頭でも「分かりました」と言わない。持ち帰って相談してください
そして、こうした状況になったなら、優先すべきはまず自分の安全と健康、そして記録と相談です。焦って次を決めると、条件を確かめないまま入社先を選ぶことになりがちです。そのうえで、隠す前提で進めていた計画は組み直して構いません。隠すことの優先度は、確実に下がります。
いちばん難しいのは、たいてい時間の問題
在職中の活動で最後まで残るのは、隠すことよりも時間のやりくりです。
面接は平日の日中に設定されることが多く、応募先が増えれば、日程の候補出し・調整・変更のやり取りだけで相当な量になります。しかもその連絡は、休憩時間や勤務時間外、あるいは有給休暇中に、私物の端末で捌くことになります(勤務時間中の私用連絡は、就業規則上の問題になり得ます)。ここで力尽きて応募を絞ってしまう人は少なくありません。
対処の方向はいくつかあります。まとめて有給を取り、一日に複数社の面接を入れて回数を減らす。オンライン面接に対応している企業を優先する。応募社数を最初から現実的な数に絞る。どれも自分でできることです。
そのうえで、もう一つの選択肢が転職エージェントを使う形です。エージェント経由にすると、面接日程の候補出しと調整、辞退や条件面のやり取りが担当者を挟む形になるので、自分が直接やり取りする量は減ります。仕組みとしては、採用が決まった際に企業側から報酬を受け取るモデルなので、求職者は無料で使えます。裏を返せば、紹介される求人はそのエージェントが扱っている企業に偏りますし、担当者との相性もあります。求人サイトでの自己応募と併走させるくらいの距離感がちょうどいい、というのが私の見方です。
「どのエージェントに相談するか」で止まってしまう人へ
ここで実際につまずく人が多いのが、そもそもどのエージェントに相談すればいいのか分からない、という段階です。総合型と特化型があり、同じ会社でも担当者によって進め方が違う。何社か登録してみて、合わない担当者に当たって疲れる——在職中で時間が限られているほど、この試行錯誤はきついものです。
その入口を短くする選択肢として、一つ紹介します。転職エージェントナビ(転職AGENT Navi)は、circus株式会社が運営する、求職者と転職エージェントのマッチングサービスです。エージェントそのものではなく、「どのエージェントの、どの担当者に相談するか」を先に決めるための入口にあたります。
流れとしては、登録後にコンシェルジュとのオンライン面談(案内では15分程度)があり、そこで聞き取った希望や経歴をもとに、同社が持つエージェントのデータベースから相性の合いそうなキャリアアドバイザーを紹介する、という設計です。求職者の利用は無料で、費用は人材紹介会社側の負担で成り立つモデルです。
在職中という文脈で言えば、エージェント探しの初期の手数を減らせる可能性がある、というのが利点です。念のため書いておくと、短いのは最初のコンシェルジュ面談だけで、その後には紹介されたエージェントとの面談も、企業の選考も当然あります。時間の総量が劇的に減るわけではありません。
この記事の主題との関係で、一つ正直に書きます。ここで紹介しているのは、あなたの経歴をエージェント会社へ渡す仕組みのサービスです。つまり、あなたの情報を持つ相手が増えます。この記事はまさに「情報がどこから漏れるか」を書いてきたので、そこには触れておかなければ筋が通りません。
使うなら、登録前に次を確認してください。①誰に、どの情報が渡るのか(社名や氏名を含むのか、何社に渡るのか)②現職への非公開設定があるか③紹介を止めたいとき、情報提供もあわせて止められるか④退会時に登録情報を削除できるか。ここを確認できないなら、無理に使う必要はありません。
紹介されるのはそのデータベースに登録しているエージェントに限られますし、紹介された相手が必ず合うとも限りません。合わなければ断って構いませんし、求人サイトでの自己応募をやめる必要もない。あくまで入口を一つ増やす、くらいの距離感で見てもらえればと思います。
最後に
在職中の転職活動でいちばん怖いのは、実は「バレること」そのものよりも、バレるのが怖くて動けないまま時間が過ぎることのほうだと思っています。
漏れる経路の多くは、この記事に書いたとおり、自分の側にあります。裏を返せば、自分で塞げるということです。メールアドレスを分ける、端末を分ける、公開設定を見直す、話す相手を絞る。この四つで発覚のリスクはかなり下げられます。完全に防げるわけではありませんが、そこまでやったら、あとは普通に選考を受けていいと思います。
そのうえで、応募先の見極め方については自分の市場価値、正しく測れていますかを、書類でつまずいている感触があるなら書類を5秒で落とす瞬間、私はここを見ているを、あわせて読んでみてください。
転職活動をしていること自体を、会社に申告する義務は通常ありません。動いている途中を誰かに説明する必要はない、と考えて構わないと思います。
ただし、辞めると決めたあとは話が別です。まず法律の話をすると、期間の定めのない雇用では、民法上、解約の申入れから2週間で契約が終了するとされています(有期契約は別のルールです)。そのうえで、就業規則に「退職の1か月前までに申し出ること」といった定めを置く会社は多く、引き継ぎや有給の消化を考えると、規則に沿って早めに伝えるほうが実務的には円満です。極端に長い社内規定が常に法律に優先するわけではありませんが、まずは自分の契約区分と就業規則の両方を確認したうえで、伝えるタイミングを決めてください。競業避止や秘密保持の扱いも、そのときに一緒に見ておくと安心です。