自分の市場価値、正しく測れていますか——採用する側が使う3つのモノサシ

「自分の市場価値って、結局いくらなんだろう」。転職しようか迷い始めると、多くの人が一度はこの問いにぶつかります。そして、たいていの人が最初にこう答えを出します。「今もらっている年収が、たぶん自分の価値なんだろう」と。

先に、その前提を一度崩させてください。今の年収は、あなたの市場価値そのものではありません。この二つは、そもそも測っている物差しが違います。ここを取り違えたまま「今の給料が低いから自分は価値が低い」あるいは「今そこそこもらえているから安泰だ」と判断してしまうと、身の振り方を大きく誤ります。

もうひとつ、先に断っておきます。市場価値は、一つの金額としては出ません。出てくるのは「応募できそうな職務の範囲」「書類が通りそうかどうか」「想定される年収の幅」という、輪郭のある答えです。「私はいくらの人間か」を一つの数字で確定させようとすると、いつまでも終わらないので、そこは最初に手放してください。

この記事では、採用する側が中途採用で実際に何を見て条件を決めているのか、その物差しを正直に種明かしします。そして、あなた自身が自分の立ち位置を測るための具体的な方法を、負担の軽い順に紹介します。転職するかどうかを決める前に、まず現在地を知る。その材料にしてください。(そもそも転職しようか迷っている段階の方は、転職を考え始めたら、最初にやること も合わせてどうぞ。)

「今の年収=市場価値」ではない、という話

なぜ今の年収があなたの市場価値と一致しないのか。理由はシンプルで、今の年収は「過去に、その会社が、その時の事情で決めた金額」だからです。

新卒からの積み上げ、入社時の景気、社内の給与テーブル、あなたが交渉したかどうか。今の年収は、こうした「あなた個人の実力とは別の要素」がたくさん混ざって決まっています。だから、同じ実力の人が別の会社にいるだけで年収が数十万、時に百万単位で違う、ということが普通に起きます。

市場価値というのは、これとは別の物差しです。この記事では「今の労働市場で、どんな職務・条件の選択肢を得やすいか」という意味で使います。ざっくり言えば「他の会社があなたを採るとしたら、どんな条件を出すか」。過去の積み上げではなく、これから先に出せる価値への値付けです。言うまでもなく、これは労働市場での話であって、人としての価値の話ではありません。だから、今の年収が低くても市場価値が高い人はいますし、その逆もいます。この二つがズレている人は、転職で条件が変わる余地が大きい可能性があります。まずは「今の給料は、市場から見た自分の条件とは別物だ」と切り離すところから始めましょう。

採用する側が使う、3つのモノサシ

では、他社があなたを採るとき、何を見て条件を決めているのか。実際には職種への適合、資格、勤務条件、社風との相性など見る点はいくつもありますが、金額の水準に効きやすい観点を挙げると、私が関わってきた採用では次の三つでした。

モノサシ1:需給——その経験を求める求人がどれだけあり、できる人がどれだけいるか

一つ目は需要と供給のバランスです。ここを「珍しさ」だけで考えると間違えます。珍しい経験でも、求める求人がなければ値段はつきません。逆に、できる人がそれなりにいても、求人がそれ以上に多ければ値は上がります。片側だけ見ても分かりません。

とはいえ、個人が需給を正確に測ることはできません。手元でできるのは、粗い当たりをつけるところまでです。需要側の参考値になるのが、自分の経験を必須条件に挙げている求人が転職サイトで何件ヒットするか。ゼロに近ければ、どれだけ希少でも市場では値がつきにくい、という程度のことは言えます(ただし求人件数は、掲載サイトによる違い、同じ求人の重複掲載、1件で複数名募集といった事情で簡単に増減します。件数そのものを信じすぎないでください)。供給側は、もっと分かりません。同じ募集が長く出続けているのは供給不足の弱いサインではありますが、通年採用、条件が厳しくて決まらない、自動更新でずっと出ているだけ、という場合もあります。

そのうえで、「すごい実績かどうか」と「値がつくかどうか」は別だ、という点は押さえてください。誰もが認める立派な成果でも、同じことができる人が多く、求人が少なければ値付けは伸びません。逆に一見地味でも、掛け合わせ(特定の業界知識と特定のスキルの両方など)ができる人が少なく、そこに求人があるなら、それは強い。

モノサシ2:再現性——その成果が、うちでも出せるか

二つ目は、あなたが前の会社で出した成果を「うちの環境でも、もう一度出せそうか」という見立てです。採用する側が最終的に買っているのは、過去の実績そのものではなく「これから自社で成果を出してくれる確率」だからです。

だから、実績の華やかさよりも、「どんな状況で、何を考えて、どう動いて、その結果になったのか」というプロセスが見られます。環境や運に依存した成果なのか、それとも本人の判断と行動から生まれた成果なのか。後者だと読み取れる人ほど「うちでも再現してくれそうだ」と評価が上がり、値付けも上がります。ここは、私が関わる選考では書類でも面接でも見ている点です(書類の初期確認で何がどう見られているかは 書類を5秒で落とす瞬間、私はここを見ている で書いています)。

モノサシ3:当てはめ——社内のどの職務・どの等級に置けるか

三つ目は、あなたを「うちのどのポジションで、どの等級に置くか」という当てはめです。等級ごとに給与レンジをあらかじめ決めている会社は多く、その場合、提示額はレンジの中で外部の相場を見ながら決まります(等級やレンジで運用していない会社もあります)。

これが分かると、腑に落ちることがいくつかあります。同じ経歴でも会社によって提示額が違う理由の一つは、当てはまる等級とレンジが違うから。「あと少し上げてほしい」が通らない理由の一つは、レンジの上限に当たっているから。役割の責任範囲を一段上げる提案とセットなら動くことがあるのは、当てはめる等級そのものが変わりうるから。

いずれも「理由の一つ」です。実際の提示額には、職務の中身、社内にいる同等の人とのバランス、その年の採用予算、勤務地、交渉、他の候補者との比較まで絡みます。

そのうえで言えるのは、条件を上げたいときに効きやすいのは「同じ仕事でもっと高く買ってもらう」より、「一段上の職務に当てはめてもらえる材料を持つ」ほうだ、ということです。人を動かした経験、範囲を任された経験、判断した経験。ここが等級の分かれ目になりやすいところです。

採用コストは、モノサシではなく背景事情

もうひとつ、よく「採用単価が市場価値を決める」という説明を見かけます。ここは分けて考えたほうがいいので、補足しておきます。

採用にはお金がかかります。求人広告やエージェントへの費用、選考にかける社員の時間、入社後に立ち上がるまでの期間。民間の職業紹介を使えば、企業は成功報酬を負担します。だから採用する側は「この人にこの年収を払い、このコストをかけて見合うか」を、どこかで必ず考えています。

ただし、これはあなたの価値を測るモノサシではありません。採用経路にかかるコストの話であって、あなたの経験が変わるわけではない。同じ人でも、直接応募なら安く、エージェント経由なら高くつきます。そのため、この事情が効きやすいのは「採るか採らないか」の判断や、予算が厳しい時期の見送りのほうです。ただし、採用経路にかかる費用を含めた予算の中で条件を決める会社もあるので、提示額に間接的に影響することはあります。いずれにせよ、あなたの経験そのものの価値とは別の話だと切り分けてください。

提示額に影響する背景事情は、ほかにもあります。その年の採用予算、急ぎの欠員かどうか、他に候補者がいるか、勤務地、業界そのものの収益性。あなたの側でコントロールできないものが、かなりの割合を占めます。提示額が思ったより低かったとき、それを全部自分の価値の低さとして受け取る必要はありません。

入社1〜3年目の方へ。ここまでの3つは、ある程度の実務経験がある人を前提にした見方です。第二新卒の年次では、比べられる実績がまだ少なく、実際には基礎的な仕事の進め方、これから伸びそうか、職種を変えられる余地があるかのほうが重く見られます。だから金額の相場を測るより先に、「いまの経験がどの職種の入口として通用するか」を見たほうが役に立ちます。この記事のステップ1で求人票を並べるとき、年収より必須条件の欄を中心に見てください。転職そのものを迷っている段階なら、入社1〜3年目で転職を考え始めたら最初に整理すべきことが先です。

なぜ、社内の評価と市場価値はズレるのか

ここで、在職中の多くの人が抱えるモヤモヤに触れておきます。「社内ではちっとも評価されないのに、これで市場価値が高いなんてあるのか」。あるいは逆に「社内では評価されているのに、外に出たら通用しないのでは」。

結論から言うと、社内評価と市場価値がズレるのは、あなたのせいでも上司のせいでもなく、そもそも別の物差しで測っているからです。社内の等級や評価は、その会社独自のルールで決まります。会社によっては、在籍年数、限られた昇格枠、上司との相性、その年の業績で配分される原資といった要素も絡みます。これらは「社内で通用する物差し」であって、他社には持ち出せません。

一方で市場価値は、会社をまたいで通用する経験・スキル・再現性で測られます。だから、「社内の物差しでは低いが、市場の物差しでは高い」という人が普通に存在します。社内で評価が伸びない理由が"枠がなかった"だけなら、それは市場価値の低さを意味しません。この二つを混同して「自分は評価されない人間だ」と結論づけてしまうのは、いちばんもったいない誤解です。ズレているなら、それは測り直すべきサインです。

なお、社内側の物差しがどういう順番で決まっているのか——原資、評価の分布のめやす、等級ごとの給与レンジ、昇格要件——は、昇給しないのは、あなたのせいじゃない——給料の上がり方が決まる順番で詳しく書きました。「評価は悪くないのに昇給しない」に心当たりがあるなら、そちらを先に読むと切り分けが早くなります。

市場価値を測る、具体的な方法

冒頭に書いたとおり、出てくるのは幅を持った答えです。負担の軽いものから順に、三段階で紹介します。

ステップ1:求人票を10〜20件、同じ条件で並べて比べる(無料・今日できる)

いちばん手軽で、いちばん効きます。ただし「眺める」だけでは相場はつかめません。条件をそろえて並べるのがコツです。

転職サイトで、次の条件をなるべく固定して検索してください。職種/勤務地/雇用形態/求められる経験年数。ここがバラバラのまま見比べると、年収の差が経験の差なのか職種の差なのか分からなくなります。

そのうえで、10〜20件について次をメモします。表計算でも紙でも構いません。

並べ終わったら、まず必須条件をおおむね満たしている求人だけを残してください。満たしていない求人の金額を混ぜても、自分が受け取れる条件の話にはなりません。

そのうえで、残った求人の年収の下限を小さい順に並べ、真ん中あたりを見ます。ここで大事なのは何が含まれた金額なのかを、列を分けて記録することです。「提示年収の下限」「固定残業代の金額と時間」「賞与の書かれ方(年◯回だけか、月数まであるか)」を別の欄に書く。書かれていない項目は「不明」のままにしてください。無理に引き算をすると、かえって実態から離れます。同じ400万円でも、固定残業45時間込みと残業代別では中身がまるで違う——それが見えるだけで十分です。

だからここで出るのは、あなたの相場ではありません。「この検索条件で、自分が応募できそうな求人の、募集下限はこのあたり」という粗い目安です。それでも、何も見ないで想像するよりはるかに確かです。

あわせて、必須条件を満たす求人が何件残ったかを数えてください。ここがモノサシ1の需要側の手がかりになります。20件見て2〜3件しか残らないなら、その検索条件では適合する求人が少ないということ。すぐに「自分の経験では狙えない」と結論づけず、職種名の表記を変える、別の媒体を見る、期間を置いて再検索する——このあたりを試してから判断してください。

ステップ2:無料の診断ツールで、別の角度から見る(無料・15〜30分)

次の段階が、市場価値診断や適性・強み診断のツールです。経歴や質問への回答から、想定年収の目安や強みのタイプを無料で出してくれます。

ただし、扱い方に注意がいります。「第三者が出した数字だから客観的」とは限りません。算定のもとになるのは、そのサービスに登録している人のデータと、そのサービスが扱っている求人です。母集団が偏れば結果も偏りますし、そもそも登録者を増やすための入口として設計されているものもあります。

だから、出てきた金額を信じる材料としてではなく、ステップ1の相場と食い違ったときに「なぜ違うのか」を考える材料として使ってください。診断のほうが高ければ、その理由になっている経験は何か。低ければ、入力した情報が実態より薄くなっていないか。ズレそのものが情報です。

ステップ3:人に聞いて、三点で照合する

最後が、転職エージェントとの面談です。彼らは「実際にいくらでオファーが出たか」という成約の実例を持っています。面談では、あなたの経歴を市場の目で見て、「この経験はこういう会社で評価される」「この年収帯が狙える」といった具体的な話が聞けます。多くの場合、無料です。

ただし、ここで聞いた数字を「正解」として受け取らないでください。担当者が答えられるのは、その人が扱っている求人と、得意な領域の範囲です。しかも成約したいという立場でもあります。高めに言われることも、低めに言われることもあります。

そこで、次の三つを突き合わせてください。これが一番確かな測り方です。

ひとつ注意を。「転職するつもりはないが現在地だけ知りたい」という使い方が可能かどうかは、サービスによって違います。転職意思が低い人は支援の対象外としているところもあるので、面談の前に率直に伝えて確認してください。伝えたうえで受けてもらえるなら、遠慮はいりません。なお、診断もエージェントも、登録時には個人情報の利用目的・企業への公開範囲・スカウト設定を一度確認しておくと安心です。

ただ、ここで最初の壁にぶつかる人が多い。そもそも、どのエージェントに会えばいいのか分からないという壁です。総合型と特化型があり、同じ会社でも担当者によって持っている相場観が違う。何社か登録して合わない担当に当たると、それだけで疲れて測るのをやめてしまいます。

その入口を短くする選択肢として、転職エージェントナビ(転職AGENT Navi)を挙げておきます。circus株式会社が運営する、求職者と転職エージェントのマッチングサービスです。エージェントそのものではなく、「どのエージェントの、どの担当者に会うか」を先に決めるための入口にあたります。登録後にコンシェルジュとのオンライン面談(案内では15分程度)があり、そこで聞き取った内容をもとに、同社が持つエージェントのデータベースから相性の合いそうなキャリアアドバイザーを紹介する、という設計です。求職者の利用は無料で、費用は人材紹介会社側の負担で成り立つモデルです。

この記事で「相場観は各社の取扱求人に偏るので、複数の情報源と照らしてほしい」と書きました。その複数を自力で探すより、先に相性で絞ってもらうほうが早い場面はあると思います。ただし紹介されるのは当然そのデータベースに登録しているエージェントに限られますし、紹介された相手が必ず合うとも限りません。合わなければ断って構いませんし、自分で直接エージェントを探す道をやめる必要もありません。

転職エージェント紹介サービスの内容を見てみる

測った後、どう身を振るか

さて、三つの方法で自分の市場価値を測ったとします。出てきた結果は、大きく二通りです。

思ったより高かった場合。これは選択肢が増えたということです。すぐに転職しなくても、「市場ではこう見られている」という手応えは、この先のキャリアを考えるうえでの確かな参考になりますし、いざという時の安心にもなります。焦って動く必要はありません。ただ、高い値がついている時期は動きやすい時期でもあるので、選択肢として温めておく価値はあります。

思ったより低かった場合。落ち込む必要はありません。早い段階で分かったことのほうが価値があります。ただ「頑張ろう」では動かないので、理由を切り分けてください。打つ手がまるで違います。

まず、自分では動かせない要因があります。その会社の給与水準、その年の採用予算、勤務地、他の候補者との比較、欠員が急ぎかどうか、業界そのものの収益性。低い提示の理由がここにある場合、あなたの経験を磨いても変わりません。応募先を変えるほうが早い。

そのうえで、自分の側で動かせるものは、主に次の三つです。

ステップ1のメモが切り分けの材料になります。必須条件を満たさない項目が多いなら一つ目、求人がそもそも少ないなら三つ目の可能性が高い。ただし必須条件を満たしているのに通らない場合、原因は二つ目とは限りません。応募が集中している、求められる経験の深さが違う、業界の勘所が合わない、単に他の候補者のほうが近かった——どれもあり得ます。二つ目は「まず疑う価値があり、自分で直せる」ものであって、唯一の答えではありません。

そして、これがいちばん伝えたいことなのですが——市場価値は、転職しなくても測る価値があります。測るという行為は、転職の申し込みではありません。健康診断のように、今の自分の状態を一度確かめておく。それだけで、「このままでいいのか」という漠然とした不安が、「次に何をすべきか」という具体的な問いに変わります。

不安の正体は、たいてい「分からないこと」です。自分がどう見られているのか分からないから、動くのも留まるのも怖い。だったら、まず測る。高くても低くても、現在地が分かれば、次の一歩は自分で選べるようになります。

今日できるのは、ステップ1だけです。職種と勤務地を固定して求人票を10件開き、年収の下限と、必須条件のうち自分が満たすものを書き出す。登録も面談も要りません。30分ほどで、いまの立ち位置の輪郭は見えてきます。

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