早期に退職した人の話を聞いていると、驚くほど同じ形の言葉が出てきます。「あのとき、実は言われていたんです」。残業のことも、休日のことも、人がよく辞めることも。面接の場で、面接官の口から、はっきり出ていた。それでも入社を決めてしまった、と。
先に結論を書きます。入社後に「話が違う」となる場面の多くは、面接官が嘘をついた結果ではありません。悪気なく正直に答えた内容を、聞いた側が悪い意味だと受け取れなかった、という形で起きています。もちろん、都合の悪い情報を意図的に伏せる会社もあります。ただ、実務で目にする頻度が高いのは前者のほうです。
だとすると、必要なのは本音を引き出す鋭い質問ではありません。聞くべきことを聞いて、返ってきた言葉を薄めずに受け取ること。この記事では、面接する側の視点から、その具体的なやり方を書きます。何を、どう聞き、返ってきた答えをどう読むか。そして、面接で聞けなかったことを後から書面で確認する方法まで。
なぜ面接官は、都合の悪いことまで正直に言ってしまうのか
「毎日2〜3時間くらいですね」「半年で半分くらい辞めますね」。こういう答えが、笑顔のまま、悪びれもせずに出てくることがあります。応募者からすると不可解に見えますが、面接する側にいると、そうなる理由はいくつも思い当たります。
ひとつは、中にいる人にとって、それが異常値ではなくなっているからです。基準は、いま自分がいる場所の中で更新されていきます。周囲の全員が同じように働いていれば、それが「普通」になります。普通のことを聞かれたので、普通に答えた——本人の主観としては、それだけのことです。
もうひとつは、面接官が採用の専門家とは限らないからです。面接は現場の社員が担当することも多く、面接官としての訓練を受けていない人が座っていることは珍しくありません。「この情報は応募者にどう響くか」という設計をせずに、聞かれたことにそのまま答えます。
そして、多くの面接官は誠実に振る舞っているつもりです。隠して入社させたら後で問題になる、と考えて、あえて先に伝えている。この動機は本人の中では善意です。だから表情も自然なままになります。笑顔で言われたことと、内容の重さは無関係です。ここを取り違えると、深刻な話が軽い話として耳を通過していきます。
逆に言えば、応募者にとってはありがたい状況でもあります。聞けば、かなりの確率で本当のことが返ってきます。問題は、多くの人がそもそも聞かないことのほうです。
「労働条件を聞いたら落ちますか」に、正直に答えます
この不安が、質問をためらわせる最大の要因だと思います。面接する側から見た実際を書きます。
はじめに断っておくと、これは統計ではなく、面接する側にいる立場から見えている範囲の話です。そのうえで書くと、労働条件を確認すること自体を減点材料にする選考は、多くありません。入社後にミスマッチで辞められるのは会社側にとっても損失なので、条件をすり合わせておきたい動機は共通しています。募集の段階で示している内容について確認されて、機嫌を損ねる面接官はそう多くありません。
評価に影響しやすいのは、質問の内容ではなく順番と比重のほうです。一次面接の早い段階から待遇や休日の話だけが続くと、「仕事の中身への関心が薄い」と受け取られることはあります。実務的には、条件面の細かい確認は選考の後半、あるいは内定後のオファー面談に寄せるのが無難です。序盤で聞くなら、仕事内容の質問と混ぜて、働き方の理解として聞く形にすると自然に収まります。
そのうえで、ここがいちばん大事なところです。労働条件の質問に対する会社の反応そのものが、判断材料になります。答えを渋る、質問で返してくる、笑って流す、「そんなこと気にする人は続かないよ」といった空気を出す。こうした反応が返ってきたら、それがその会社の答えです。堂々と聞いて構いません。条件を確認されることを歓迎しない姿勢が面接の場で出ているなら、少なくともその点は入社前に分かってよかった、と考えていいと思います。
なお、質問の中身ではなく振る舞いのほうで評価を落とすケースについては、面接で"一発アウト"になる瞬間 に別途まとめています。
質問1:残業は「平均」ではなく「いちばん多い月」を聞く
「残業はどのくらいですか」と聞くと、たいてい平均値が返ってきます。ところが平均値は、いちばん情報量が少ない答えです。全社平均なのか、配属予定の部署の数字なのか、繁忙期を含むのか、そもそも何を残業として集計しているのか。前提が分からないまま数字だけ受け取っても、判断には使えません。
聞き方はこうです。「配属予定の部署で、いちばん忙しい月だと残業は何時間くらいになりますか」。平均ではなく上振れを聞く。答えられない場合は、「部署ごとに差がありますか」「繁忙期はいつ頃ですか」と分解していきます。
読み方には、ひとつ具体的な物差しがあります。時間外労働には法律上の上限が定められています。原則は月45時間・年360時間。臨時的な特別の事情があって労使が合意した場合(特別条項)でも、年720時間以内、単月100時間未満・複数月平均80時間以内(この2つは休日労働を含みます)、そして月45時間を超えられるのは年6回までとされています(厚生労働省・時間外労働の上限規制)。
この物差しを当ててみます。「毎日2〜3時間」という答えは、月20日稼働なら月40〜60時間に相当します。ここで正確を期すと、所定労働時間を超えた分がそのまま法定の時間外労働になるとは限らないので、始業終業の時刻や休憩の取り方を確認しないと厳密な比較はできません。そのうえで、これが法定の時間外労働として年間続くなら、年480〜720時間になります。原則の年360時間を大きく超える水準です。特別条項は臨時的な特別の事情がある場合の仕組みなので、通常予見できる恒常的な業務量をその理由に据えることは想定されていません。
つまり「毎日2〜3時間が普通です」という答えは、それだけで違法だと決めつけられるものではありませんが、上限規制の枠にどうやって収めているのかを確認しないと判断できない水準だ、ということです。「原則の年360時間に対して、実際はどのくらいですか」「特別条項は結んでいますか」まで聞ければ十分です。「まあそんなものか」と流すのと、この物差しを持って聞くのとでは、その後の判断がまったく変わります。
なお、上限規制には業種・業務による例外があります。自動車運転の業務と医師には別の上限が設けられており、建設事業は原則どおりの上限が適用されますが、災害時の復旧・復興の事業に限って一部の規制が適用されません。新技術・新商品等の研究開発業務は、上限規制の適用から除外されています。志望先がこれらに当たるかは、厚生労働省の業種別の案内で確認してください。
あわせて確認したいのが、その残業がどう支払われるかです。固定残業代(みなし残業代)の制度がある場合、何時間分としていくら支払われるのか、その時間を超えた分は別途支払われるのかが、求人や労働条件の明示に含まれているはずです。求人票にその記載があるかを先に見て、なければ聞いてください。「残業代は出ますか」より「固定残業代は何時間分ですか」のほうが、はるかに具体的な答えが返ってきます。
質問2:休日は「もちろん」の後ろにつく言葉を聞く
「休日はちゃんと休めますか」に対して、「もちろんです」と即答が返ってくる。ここで安心して次の話題に移ってしまうのが、いちばんもったいない場面です。
「もちろん」は制度の話で、その後ろにつく但し書きが運用の話です。そして実態を作っているのは運用のほうです。「ただ、チャットは見ておいてもらえると」「みんな返信は早いので」——この一言が続いたなら、そこがその会社の休日の定義です。制度上は休みでも、連絡を待つ状態が続くなら、心理的に休める時間は別物になります。そしてこれは、気の持ちようの問題にとどまりません。会社の指示で連絡に対応することが求められ、労働から離れることが保障されていない状態なら、その時間は労働時間として扱われるべきものに当たる可能性があります。実際にどう判断されるかは、指示の有無や拘束の程度によります。
聞き方を具体的にします。「休日に業務連絡が来ることはありますか」「来た場合、当日中に返すのが普通ですか」「有給休暇の取得率はどのくらいですか」「連続して取っている方はいますか」。この4つで、制度と運用の距離がかなり見えます。
有給については補足があります。年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について、会社には年5日を取得させる義務があります(労働基準法39条/e-Gov法令検索・労働基準法)。ただし、取得率をその場で答えられないこと自体は、必ずしも問題ではありません。面接官が現場の社員なら、部署別の数字を持っていないほうが普通です。見るべきは、答えられなかったあとの対応のほうです。「確認して回答します」と言うのか、質問そのものをはぐらかすのか。ここに差が出ます。
もうひとつ、年間休日日数は分かりやすい物差しです。募集にあたって休日に関する事項は明示することになっていますが、「年間休日◯日」という集計された形で書かれているとは限りません。書かれていれば、複数社を並べたときの差がそのまま比較できます。書かれていなければ、そこが面接での質問項目になります。
質問3:定着は「離職率」ではなく「このポジションの経緯」を聞く
「離職率はどのくらいですか」と聞くと数字は返ってきますが、この数字は定義が会社ごとにばらつきます。分母を何にするか、いつの時点で数えるか、定年や契約満了を含むか。比較できない数字を受け取っても意味がありません。
代わりに、目の前の募集そのものについて聞いてください。「このポジションは欠員の補充ですか、増員ですか」「前任の方は、どのくらい在籍されていましたか」「同じ職種で、いま在籍がいちばん長い方は何年目くらいですか」。この3つは具体的で、面接官も答えやすく、そしてごまかしが効きにくい質問です。
読み方はこうです。同じポジションで欠員補充が繰り返されているなら、理由を一段掘る価値があります。もっとも、抜けた理由が悪い話とは限りません。事業の拡大にともなう異動、定年、契約期間の満了、独立。いくらでもあります。大事なのは、その理由が説明されるかどうかです。「まあ、いろいろありまして」で流れるようなら、そこは踏み込んで聞いてください。
そして、いちばん注意して聞いてほしいのがこの形の答えです。「よく辞めますが、毎年たくさん採用しているので大丈夫です」。これは安心材料ではなく、辞める前提で採用し続けているという説明です。人が抜ける原因に手を入れるより、採用で穴を埋めるほうを選んでいる、という説明にも読めます。そうであれば、入社後にその環境に置かれるのは自分だという前提で考えたほうが安全です。
参考として、公的な数字を置いておきます。厚生労働省が毎年公表している新規学卒就職者の離職状況では、2022年(令和4年)3月卒業者のうち就職後3年以内に離職した割合は、大学卒33.8%、高校卒37.9%でした(厚生労働省・新規学卒者の離職状況)。ただし、これは新規学卒者全体の数字です。対象も分母も観察期間も、面接で聞いた特定の職場の話とは違うので、そのまま並べて優劣を判断することはできません。業界による差も大きい。世の中の平均的な水準がどのあたりにあるかを知っておくための数字だ、という程度に受け取ってください。
面接で聞けなかったことは、書面で確認できる
その場で全部聞ける人ばかりではありません。緊張もするし、雰囲気に飲まれることもあります。ただ、労働条件については、口頭のやり取りとは別に、書面で確認できる仕組みがあります。ここを使わないまま入社を決めてしまう人が、とても多い。
まず、労働契約を結ぶ際に、会社は労働条件を明示しなければならないとされています(労働基準法15条)。そして2024年4月から、明示すべき事項に「就業場所・業務の変更の範囲」が追加されました(厚生労働省・2024年4月から労働条件明示のルールが変わります)。これは、入社直後の配属だけでなく、契約期間中に見込まれる配置転換の範囲まで示すものです。「全国転勤の可能性があるのか」「職種が変わりうるのか」が、書面で読めるようになったということです。有期契約の場合は、契約を更新するときにも明示が必要になります。あわせて、募集や求人申込みの段階で明示すべき事項も追加されました。こちらは労働基準法ではなく職業安定法にもとづくルールで、契約時の明示とは別の制度です。
ひとつ注意を。明示が必要になるのは「労働契約の締結に際して」であって、内定の通知と同じタイミングとは限りません。書面がまだ手元にないなら、承諾の回答をする前に「労働条件通知書をいただけますか」と依頼してください。受け取ったら、次の照合をします。
- 求人票に書かれていた内容と、通知書の内容が一致しているか
- 面接で口頭で言われた条件が、書面のどこに書かれているか
- 就業場所・業務の「変更の範囲」がどう書かれているか
- 始業終業の時刻、所定時間外労働の有無、休憩・休日・休暇
- 賃金の決定・計算・支払方法、締め日と支払日
- 固定残業代がある場合、その額・相当する時間数・超過分を別途支払う旨
- 有期契約の場合、更新の基準や、通算契約期間・更新回数の上限
昇給に関する事項も明示すべき項目に含まれますが、書面の交付までは義務づけられていない扱いなので、通知書に書かれていないことがあります。その場合は口頭で確認してください。
ズレが見つかったら、承諾する前に質問してください。この段階での確認は、まったく失礼にあたりません。むしろ通常の手続きです。そして、口頭で言われた好条件については「それは書面のどこに当たりますか」と聞いてください。書面に残っていない条件は、あとから確認するのに手間がかかります。メールのやり取りやメモが手がかりになることはありますが、いちばん確実なのは書面に載せてもらうことです。
読んでも判断がつかない、あるいは説明された内容に疑問が残る場合は、各地の労働局や労働基準監督署に置かれている総合労働相談コーナーで相談できます。無料で、労働者からの相談を受け付けています。
一社しか見ていないと、その答えが異常かどうか分からない
ここまで読んで、「聞き方は分かったが、返ってきた答えが普通なのか異常なのか判断できない」と思った方がいるはずです。そのとおりで、これは比較からしか出てこない感覚です。
いちばん手軽な方法は、同じ職種の求人票を3社分並べて眺めることです。登録も面談も要りません。並べると、年間休日、所定労働時間、固定残業代の時間数、賃金の幅が、同じ仕事でもはっきり違うことが分かります。この作業をしてから面接に臨むと、面接官の答えが自分の中の相場とどうズレているかが、その場で分かるようになります。
年収の見方そのものについては 自分の市場価値、正しく測れていますか——採用する側が使う3つのモノサシ に、いま辞めるべきか迷っている段階の整理は 入社1〜3年目で転職を考え始めたら最初に整理すべきこと に書いています。在職中に動くのが会社に知られないか不安な方は、在職中の転職活動が会社にバレる瞬間 を先に読んでおくと落ち着いて進められます。
求人票を自分で並べるところまでは無料でできますが、探す時間が取れない、自分の条件に合う求人がどこにあるか分からない、という段階でサービスを使うという選択肢もあります。以下は広告を含む紹介です。選択肢の一つとして挙げるもので、利用をおすすめするものではありません。
転職AGENT Navi(運営:circus株式会社)は、希望条件をもとに転職エージェントを紹介するマッチングサービスとして案内されています。エージェントそのものではなく、条件に合いそうな転職エージェントにつなぐ形です。複数の窓口から求人を見比べたいときの入口としては使えます。書類の添削や面接対策をどこまでしてもらえるかは、紹介された先のエージェントによって変わるので、最初の相談で確認してください。連絡がどの会社から、どんな手段で、どのくらいの頻度で来るのかも、あわせて聞いておくと後が楽です。サービスの内容や条件は変わることがあるため、詳細は公式サイトでご確認ください。
このリンクから登録があった場合、当サイトに広告費が入ります。そのうえで、使う前に確認しておいたほうがよい点も上に書きました。判断はご自身でどうぞ。
面接は、選ばれる場であると同時に、選ぶ場です
最後に、いちばん伝えたいことを書きます。
面接の帰り道に、多くの人が自分の違和感を薄めます。「でも面接官はいい人そうだった」「熱意は本物だった」「自分がまだ甘いだけかもしれない」。この上書きが起きた瞬間に、せっかく手に入れた情報が捨てられます。面接官の人柄と、労働条件は別の項目です。いい人が、きつい環境を、正直に説明していただけ——そういう面接は本当にあります。
だから実務的な対策はひとつです。面接が終わったら、建物を出る前に、聞いた言葉をそのままメモしてください。要約せず、印象も加えず、言われた通りに。「毎日2〜3時間」「半年で半分」「Slackは見ておいて」。数時間経つと、この言葉は必ず自分に都合よく丸められます。書き留めた文字列だけが、後から冷静に読み返せます。
そして今日できることを、ひとつだけ。手元にある求人票を開いて、①年間休日日数 ②固定残業代の有無と時間数 ③就業場所・業務の「変更の範囲」の3つを確認してください。3分で終わります。ここに書かれていない、あるいは曖昧にしか書かれていない項目が、次の面接で必ず聞くべき質問です。