「AIで仕事がなくなるから、新卒採用が減る」——この見出しを、この一年で何度も見た人は多いと思います。実際に採用人数を大きく減らした企業のニュースも出ていますし、就活を控えた学生から不安の声を聞くことも増えました。自分が社会に出るタイミングで、入口そのものが狭くなるのではないか。そう感じるのは自然なことです。
採用する側から、まず数字の話をさせてください。そのうえで、現場で実際に何が変わりつつあるのか、学生は何を準備しておくといいのか、すでに働いている人はこの流れをどう受け止めればいいのかを、順に整理します。
「全体が一斉に絞られている」わけではない
リクルートワークス研究所が2026年6月30日に公表した調査「人口減少・AI時代の新卒採用と育成」があります。2026年2月27日から3月19日にかけて、従業員1,000人以上の全国の民間企業1,000社の人事部を対象に実施したもので、有効回答は186社、回答率は18.6%でした。
先に断っておくと、この数字から企業全体の動向を判断することはできません。対象が大企業に限られていますし、回答率18.6%ということは、回答しなかった8割超の企業の考えは含まれていません。答えた企業の傾向が全体と同じとは限らない、という前提で読んでください。
そのうえで。AIをはじめとする技術の進展が新卒採用数に与える影響について、最も多かった回答は「変わらない」で68.8%。「増やす」が7.5%、「減らす」が7.5%と、増減はほぼ同数でした。回答したこれらの大企業に限って言えば、採用数そのものを動かすと答えた企業は多くなかった、ということになります。
ただし、同じ調査で「AIへの対応が人材・採用戦略に反映されている」と答えた企業は6.5%にとどまり、「議論が始まっている」が35.5%でした。まだ考えている最中の企業が多い、とも読めます。「今のところ変えない」であって、「今後も変えない」ではない。ここは正直に書いておきます。
報道で目にする大幅な採用削減は、実際に起きていることです。ただそれは、業界や職種、その企業の事業環境によって濃淡が大きい話でもあります。絞る企業と変えない企業が同時に存在している、というくらいの解像度で見ておくのが安全だと思います。
採用の現場で、実際に変わりつつあること
ここからは調査の話ではなく、私が担当してきた範囲で見聞きしていることです。市場全体の傾向として読まないでください。
ひとつは、新人が最初に任されてきた仕事の一部が、AIで処理できるようになってきたことです。資料の下書き、議事録、定型的な調査、データの整形。かつては「まずここから覚えてもらう」という入口だった作業が、AIに寄せられていく。すると、新人に何を任せて、どう育てるかを組み直す必要が出てきます。先ほどの調査でも、AIを踏まえた育成の変化として「研修プログラムの内容を見直す」を挙げた回答が34.6%ありました(研修を減らすという意味ではなく、内容の見直しを挙げた企業の割合です)。
もうひとつは、選考で何を聞くかです。私が関わる選考では、何を課題だと考えたのか、なぜその進め方を選んだのか、出てきたものをどう検証したのか——判断の部分を掘る質問が増えました。これは「AIに強い学生を採りたい」という話ではありません。AIが担える部分が増えたぶん、人が判断した部分を確かめたくなる、という程度のことです。
学生は何を身につけておくといいか
そのうえで、就活を控えた人に向けて。特別なことを勧めるつもりはありません。選考する側から見て、話を聞いていて差を感じやすいのは次の四つです(あくまで私の実感で、企業によって見方は異なります)。
1. AIを使って何かを最後までやり切った経験
「AIを使えます」だけでは、もう差になりにくいと感じます。使っている学生が増えているからです。差が出るのは、何のために使い、どこで判断を挟み、出力をどう検証して、最終的に何を出したか、を自分の言葉で説明できるかどうかです。授業の課題でも、サークルの運営でも、個人の制作でも構いません。規模は問われません。ただし授業の課題を使う場合は、その授業で生成AIの利用が認められているか、出典の書き方に指定がないかを必ず確認してください。規程に反した使い方は、それ自体が問題になります。大事なのは、AIに任せた部分と自分が決めた部分を、あとから切り分けて話せることです。
2. 出力を疑って確かめる習慣
実務でAIを使ううえで、いちばん困るのは、間違いに気づかないまま次に進んでしまうことです。裏を取る、一次情報に当たる、数字の桁を確認する。地味ですが、この習慣がある人は仕事を任せやすい、と私は感じます。面接でも、「どうやって確かめましたか」という一言で、答えられる人とそうでない人の差は出やすいところです。
3. 人と話して物事を進める力
言い古された話に聞こえるかもしれませんが、少なくとも現時点の選考では確かめられやすい部分です(AIが広がるほど価値が上がる、と断言できる根拠を私は持っていません)。誰に何を聞けばいいか見当をつける、意見が割れたときに落としどころを探す、決まったことを関係者に伝えて動かす。学生時代に、利害の違う相手と何かを進めた経験があるなら、それは語る価値があります。
4. 自分で学び直せること
これは調査から言えることではなく、私の考えです。分からないことを自分で調べて、必要なら人に聞いて、身につけていく。その進め方をすでに持っている人は、入ってからの立ち上がりが早い印象があります。会社の研修が何を教えてくれるかは入るまで分かりませんし、そこに全部を預けない構えがあるほうが、結果的に楽だと思います。
逆に、優先度は高くないと思うこともあります。特定のAIツールの名前をいくつ挙げられるか、プロンプトの書き方をどれだけ知っているか。こうした知識は移り変わりが速く、少なくとも私が関わる選考でそこを競わせたことはありません。道具の名前より、道具を使って何を判断したかのほうが、話として長持ちします。
選考でAIを使うことについて
ついでに、よく聞かれることに答えておきます。エントリーシートや自己PRをAIに手伝ってもらうのは、悪いことでしょうか。
企業によって方針は違うので一般化はできませんが、少なくとも私は、下書きの相談相手として使うこと自体を問題視していません。読んでいて気になるのは「AIを使ったかどうか」ではなく、「本人の経験が入っているかどうか」のほうです。整った文章でも具体が薄いと、面接で深掘りしたときに答えが続かないことがあります。逆に、多少ぎこちなくても自分の経験が入っている文章は、掘ったときに話が伸びやすい。
だから、使うなら「叩き台を作ってもらい、自分の経験で書き換える」という順番をおすすめします。仕上げまで任せてしまうと、面接で自分の言葉として語りにくくなります。
あわせて、入力するものにも気をつけてください。自分や他人の氏名・連絡先といった個人情報、インターン先や応募先から知り得た非公開の情報、選考で配布された資料。こうしたものを外部の生成AIサービスにそのまま入れるのは避けたほうがいい。サービスによって入力の扱いは異なりますし、守秘の約束をしている情報なら、その約束が優先します。そして、応募先が生成AIの利用について指示を出している場合は、当然それに従ってください。
すでに働いている人は、この流れをどう見るか
転職を考えている人にとっても、他人事ではありません。ここから先は、引用した調査が示していることではなく、仮説として読んでください。新卒採用に慎重になる企業があるとすれば、その企業では「育ててから戦力にする」より「すでにできる人を採る」方向に比重が寄る局面もありうる、ということです。ただし、新卒を絞った企業が必ず経験者採用を増やすわけではありません。事業が縮んでいるなら、どちらも絞ります。
そのうえで、市場価値という観点から言えることが二つあります。
ひとつは、「AIに置き換えられる仕事」を探して怯えるより、「AIを使ったことで自分の担当範囲が広がった経験」を作るほうが、話しやすい材料になるということです。今の職場で業務にAIを入れた、そのために何を整理した、どこは人が見る必要があると判断した——こうした経験は、職務経歴書でも面接でも語れる具体になります。評価されるかどうかは応募先次第ですが、少なくとも語れる材料がないよりはいい。
もうひとつは、この手の変化があるときこそ、自分の現在地を測っておく意味が大きいということです。社内での評価と、市場での評価は別物です。何が評価されているのか分からないまま数年過ごすと、動きたくなったときに選択肢が狭くなります。測り方については自分の市場価値、正しく測れていますかで書いているので、あわせて読んでみてください。
一人で抱えないための相談先(学生向け)
ここまで書いてきたことは、頭では分かっても一人で進めるのは難しい部分があります。とくに就活中の学生にとっては、「自分の経験がどう評価されるのか」を確かめる相手が身近にいないことが多い。大学のキャリアセンターや、新卒応援ハローワークのような公的な窓口も無料で使えますし、就職情報サイトで自分で探す方法もあります。
相談する場合も、しない場合も、先にやっておくと効くことがあります。「学生は何を身につけておくといいか」で挙げた4つを、それぞれ1つずつ形にすることです。
そのうえで、AIを使ってやり切った経験を1つ選び、次の4点をA4一枚にまとめておいてください。
- 何を作ったか(提出したレポート、動いたもの、まとめた資料。現物へのリンクでも可)
- AIの出力を何で確かめたか(当たった一次情報を具体的に。公式サイト、統計、原典など)
- 自分がどこで判断したか(AIの案のどれを採り、何を捨てたか。その理由)
- やってみて分かったこと(うまくいかなかった点と、次にどう変えるか)
この一枚があるだけで、面接で聞かれたときに答えが続きます。相談に行くときも、これを持って行くと話が具体的になります。
そのうえで、選択肢の一つとしてキャリセン就活エージェントを挙げておきます。新卒で総合職を目指す学生向けの就活エージェントで、アドバイザーとの面談を通じたキャリア相談と、企業の紹介を行っているサービスです(公式サイトでは「厳選した優良企業を紹介する」と案内されています。当サイトが個別に企業を審査したものではありません)。就活対策講座や模擬面接会といったイベントも実施しています。学生の利用は無料です。
仕組みを正直に書いておくと、就活エージェントは、紹介した学生の採用が成立した場合などに、契約に応じて企業側から報酬を受け取るモデルで動いています。だから学生は無料で使える。裏を返せば、紹介される求人はそのエージェントが扱っている企業に偏ります。ここは理解したうえで、自分でも並行して探す姿勢は持っておいたほうがいい。合わないと感じたら、そこで止めて構いません。
すでに働いている方へ。上で挙げたのは新卒の学生を対象とするサービスで、社会人は登録できません。転職を前提に相談先を探すなら、自分の市場価値、正しく測れていますかで相場の測り方と相談先の選び方を、在職中の進め方については在職中の転職活動が会社にバレる瞬間を見てください。
最後に
「AIで採用が減る」という報道は実際にあり、採用人数を大きく減らした企業の話も出ています。ただ、それがどこまでAIによるものかを確かめた根拠を、私は持っていません。言えるのは、今回見た調査に答えた大企業に限れば、採用数を減らすとした企業は1割に届いていなかったということまでです。少なくともこの調査からは、入口が一斉に狭まっているとは言えません。もちろん、この調査に答えなかった企業や、中小企業のことは分かりません。
そして仮に絞られる場面があるとすれば、そこで問われるのは作業の速さより、自分が何を選んだかを説明できることのほうではないか——これは私の見立てです。
これは、対策のしようがない話ではありません。むしろ、身につけるべきことがはっきりしたとも言えます。AIを使って何かをやり切ってみる。出てきたものを疑って確かめる。人と話して物事を前に進める。そして、自分で学び直す。どれも今日から始められて、来年の面接で話せる材料になります。
不安なのは、変化そのものより「何をすればいいか分からないこと」のほうです。分からなさを一つずつ潰していけば、就活の景色は変わってきます。